私たちが当たり前に感じている「時間」。しかし最新研究は、時間が宇宙に元から備わった絶対的なものではなく、量子もつれ(エンタングルメント)から“副産物”のように立ち上がる可能性を示しました。
時間は本当に「普遍」なのか?
相対性理論では、時間は空間と一体の「時空」を構成し、重力などの条件で伸び縮みします。一方、量子重力の議論では、宇宙全体をひとつの量子状態として扱うと、式の見た目上は「時間が登場しない」(時間に依存しない)形になってしまうことがあります。なのに、私たちは日常で確かに「変化」や「時間の流れ」を感じています。ここにある矛盾が、いわゆる“時間の問題”です。
この問題に対して提案されてきた有力な考え方の一つが、ページ=ウッターズ(PaW)機構です。宇宙全体は“静止した写真”のようでも、その中に「時計役」の部分系を組み込み、時計が指す状態に応じて他の部分系の“いま”を切り出すことで、内部観測者には時間が流れて見える――という発想です。
研究のポイント:相互作用しない2系の「もつれ」から時間を取り出す
今回紹介されている研究では、PaW機構の発想をより具体的なモデルで検証しています。用意したのは次の2つです。
- 振動するシステム:周期的に振動する「調和振動子」
- 磁気時計:スピンの向き(上/下など)が“針”の役割を担う時計
重要なのは、この2つが直接相互作用しないのに、量子もつれ状態にあるという点です。もつれにより「振動子のエネルギー状態」と「時計スピンの向き」が対応づけられ、ある条件では、振動の進行に合わせてスピンが変化し、時計のように“時刻”を刻む振る舞いが確認されたといいます。
「もう1つのシュレーディンガー方程式」とは何か?
通常の量子力学では、シュレーディンガー方程式は外部から与えられた時間パラメータ t を使って、状態がどう変化するかを記述します。
しかし研究チームは、磁気時計の量子状態を一部観測(射影)することで、振動子の進化を記述する方程式を導出でき、しかもそれがシュレーディンガー方程式の形を保ったまま、外部時間の代わりに「時計系の量子状態が時間として機能する」形に再解釈できることを示した、と紹介されています。
言い換えるなら、時間(t)を外から持ち込まなくても、系の内部(もつれ)から“時間に相当する指標”が自然に定義される、ということです。
結論:時間は「量子もつれ」の副産物かもしれない
記事では最終的に、研究者が「時間は量子もつれの副産物」だと結論づけている、と述べられています。さらに、もし宇宙に量子もつれが一切なければ、観測者には“何も動かない完全に静止した世界”が見えていたかもしれない――という見立ても紹介されています。
もちろん、これは「私たちの体感する時間が全部ウソ」という単純な話ではなく、“時間をどう定義するか”を量子情報(相関)側から組み立て直す提案に近いものです。とはいえ、時間を最も基本的な前提として置いてきた直感に対して、かなり挑戦的な視点なのは間違いありません。
元研究(一次情報)
ナゾロジー記事では、本研究が Physical Review A に掲載されたものとして紹介されています。PaW機構に基づく「時計+進化する系」を、非相互作用かつもつれた2系として扱い、条件次第で古典的な“時間”の概念が立ち上がる、という方向性は、関連するプレプリントの要旨とも整合します。
(出典:arXiv “A magnetic clock for a harmonic oscillator” 要旨)
参考
- ナゾロジー:時間は「量子もつれ」の副産物に過ぎないとする研究
- arXiv: A magnetic clock for a harmonic oscillator(Coppo / Cuccoli / Verrucchi)

コメント