DNAの複製は、「設計図を1文字も間違えずにコピーする超精密コピー機」のような仕組みです。本記事では、高校〜大学初級レベルを想定して、DNA複製の流れや関わる酵素をわかりやすく解説します。
1. DNA複製とは?いつ・どこで起こる?
DNA複製(DNA replication)とは、細胞が分裂する前に、自分が持っているDNA(遺伝情報)をそっくりコピーするプロセスのことです。
- 起こるタイミング:細胞周期の S期(合成期)
- 起こる場所:
- 真核生物(ヒトなど):細胞核
- 原核生物(細菌など):細胞質内のDNAがある場所
目的はただひとつ、
「元のDNAとまったく同じ塩基配列を持つDNAを2セット作ること」です。
2. DNAの構造を簡単におさらい
DNAはよく「二重らせん構造」と呼ばれます。
- はしごをねじったような形
- 2本のヌクレオチド鎖からできている
- 塩基は4種類:
- A(アデニン)
- T(チミン)
- G(グアニン)
- C(シトシン)
塩基は相補的塩基対というルールでペアを作ります。
- A と T がペア
- G と C がペア
この「Aには必ずT、Gには必ずC」というルールが、複製の正確さを支えています。
3. DNA複製の3つの基本ルール
3-1. 半保存的複製(半保存的レプリケーション)
DNAは二重らせんなので、2本のうち1本ずつを“型(お手本)”にして新しい鎖を作ります。
イメージ:
- 元の二重らせん:親鎖A + 親鎖B
- 複製後:親鎖A+新生鎖a、親鎖B+新生鎖b
つまり、
「できあがった2本のDNAのどちらにも、もともとの鎖が1本ずつ残っている」 これを半保存的複製と呼びます。
3-2. 相補的塩基対に従ってコピーされる
新しい鎖は、お手本となる親鎖の塩基に合わせて合成されます。
- 親鎖に A があれば、新しい鎖には T
- 親鎖に G があれば、新しい鎖には C
このルールのおかげで、まるで設計図を見ながら写経するように、自動的に正しい配列が決まりやすくなります。
3-3. DNAポリメラーゼは5’→3’方向にしか合成できない
DNAの鎖には向きがあります。
- 一方の端:5’端
- もう一方の端:3’端
DNAポリメラーゼ(DNAを合成する酵素)は、5’→3’方向にしか新しい鎖を伸ばせないという制限があります。
この制限のせいで、
- 片方の鎖は連続的にコピーできる
- もう片方の鎖は細切れでコピーしてから、あとでつなぐ必要がある
この違いが、後で出てくるリーディング鎖とラギング鎖です。
4. DNA複製に関わる主な酵素たち
DNA複製は、たくさんの酵素によるチームプレイです。代表的な役者を紹介します。
- ヘリカーゼ:二重らせんをほどいて、2本鎖をファスナーのように開く。
- SSB(一本鎖結合タンパク質):開いた1本鎖同士が再びくっつかないように押さえる。
- トポイソメラーゼ:ほどかれている部分の前方で、DNAが過度にねじれるのを解消する。
- プライマーゼ:DNA合成のスタート地点になる短いRNAプライマーを作る。
- DNAポリメラーゼ:ヌクレオチドをつなぎ、新しいDNA鎖を合成する主役。
- DNAリガーゼ:細切れになったDNA断片を“糸で縫う”ように結合する。
- スライディングクランプ:DNAポリメラーゼがDNAから落ちないように抱え込むリング状タンパク質。
5. 複製フォークとリーディング鎖/ラギング鎖
二重らせんがほどかれていく場所は、Y字の「作業現場」のような形をしており、複製フォークと呼ばれます。
2本の親鎖は向きが逆になっているため、新しい鎖の作られ方が変わります。
5-1. リーディング鎖(leading strand)
- 複製フォークの進行方向と同じ向きに、5’→3’で合成される側。
- DNAポリメラーゼがフォークの進行に合わせて連続的に伸長できる。
5-2. ラギング鎖(lagging strand)と岡崎フラグメント
- 複製フォークの進行方向とは逆向きにしか5’→3’で作れない側。
- 少しフォークが開いた範囲ごとに短いDNA断片として合成される。
- この短いDNA断片を岡崎フラグメント(Okazaki fragment)と呼ぶ。
- 最後にDNAリガーゼによって、これらが一本の連続した鎖に結合される。
6. DNA複製のステップを順番に見てみよう
6-1. 開始(Initiation)
- 複製起点(origin)と呼ばれる特定のDNA配列から複製が始まる。
- 原核生物:通常、環状DNA上に1つの起点。
- 真核生物:染色体上のあちこちに多数の起点があり、同時並行で進行。
- 起点付近にタンパク質が結合し、ヘリカーゼなどの酵素を呼び寄せる。
- ヘリカーゼが二重らせんをほどき、複製フォーク(Y字状の開き)が形成される。
6-2. 伸長(Elongation)
- プライマーの合成
- プライマーゼが、親鎖に短いRNAプライマーを合成。
- DNAポリメラーゼは、何もないところからは合成を始められないため、このプライマーが「取っかかり」となる。
- DNAポリメラーゼによる新生鎖の伸長
- リーディング鎖:プライマーから連続的に5’→3’方向へ伸びていく。
- ラギング鎖:フォークが広がるたびに新たなプライマーが置かれ、短いDNA(岡崎フラグメント)が合成される。
- RNAプライマーの除去とDNAによる置き換え
- 別のDNAポリメラーゼがRNAプライマーを取り除き、その部分をDNAで埋める。
- DNAリガーゼによる結合
- 岡崎フラグメント同士の隙間(切れ目)をDNAリガーゼが結合し、1本の連続したDNA鎖に仕上げる。
6-3. 終結(Termination)
- 複製フォーク同士が近づき、全ての領域のコピーが完了すると複製は終了する。
- 原核生物(環状染色体)では、特定の終結配列やタンパク質が関与する場合がある。
- 真核生物の線状染色体では、末端部分(テロメア)の維持にテロメラーゼという酵素が重要な役割を果たす。
7. ミスをどう防ぐ?校正と修復の仕組み
どれだけ精密でも、DNA複製で塩基の入れ間違いが起こる可能性はあります。そこで重要なのが、DNAポリメラーゼの校正機能(proofreading)です。
- 合成中に間違った塩基が入ると、DNAポリメラーゼがそれを検知。
- 3’→5’エキソヌクレアーゼ活性によって、間違った塩基を切り取る。
- 改めて正しい塩基を挿入し直す。
この校正機能と、さらに他のDNA修復機構のおかげで、DNA複製のエラー率は非常に低く抑えられています。
8. 真核生物と原核生物のDNA複製の違い(ざっくり)
8-1. 複製起点の数
- 原核生物:通常、環状染色体1本に対して起点は1つ。
- 真核生物:複数の線状染色体を持ち、それぞれに多数の複製起点がある。 → あちこちから同時並行で複製を進めることで、時間を短縮している。
8-2. テロメアとテロメラーゼ(真核生物特有の問題)
- 線状染色体の端(テロメア)は、ラギング鎖側の複製で完全にコピーしにくい。
- このままだと、複製のたびに染色体が少しずつ短くなってしまう。
- テロメラーゼがテロメア配列を付け足し、末端の長さを保つ役割を担っている。
- ヒトの体細胞ではテロメラーゼ活性が低く、これが細胞の寿命や老化とも関係すると考えられている。
9. まとめ
- DNA複製は、細胞分裂前にDNAを正確にコピーするためのプロセス。
- 二重らせんを開き、片方ずつをお手本にして新しい鎖を作る半保存的複製が行われる。
- 相補的塩基対(A-T, G-C)とDNAポリメラーゼの校正機能により、非常に高い精度でコピーされる。
- 5’→3’方向にしか合成できないため、リーディング鎖(連続)とラギング鎖(岡崎フラグメント→リガーゼで結合)が生じる。
- 真核生物では多数の複製起点やテロメア・テロメラーゼなど、より複雑な調整が行われている。
DNA複製は、生命が世代を超えて遺伝情報を受け継ぐための、非常によくできた仕組みです。仕組みを一度イメージできるようになると、テスト対策だけでなく、がんや老化、遺伝病などの理解にも役立つテーマになってきます。


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